vol.41

このページでは、日本各地に潜む物の怪を毎回1匹ずつピックアップ。オリヂナルイラストをつけて紹介してゆきます。




三宅島坪田に出ると謂う猫の怪。この土地の氏神、二宮神社手前の椎の木の茂みに出ると謂う。人を化かし、ひっぱると謂う。「ひっぱりどん」という名前は、おそらく「ひっぱる」という行為からきているのであろう。ひっぱるとは、只単純に茂みに引き込むとか、袖を引くとかというだけではなく、あの世などの異界に引き込むという意味あいもあると思われる。引き込まれた人は命を取られると考えるとなかなか恐ろしい。猫は人に媚びないその性格や、死期を悟り、飼い主の前から姿を消してしまうといった習性等から、異界に通じた神秘的な動物と考えられている。年老いた猫が人を化かすという話は日本各地で聞かれる。しかし、人を引っぱる怪では「ひっぱりどん」のように猫であると明言されているものは珍しい。東京都青梅市では「てんまる」という怪が、やはり藪に引き込むと謂うが、この正体は貂若しくはムササビだと謂われている。引っぱる怪としては、埼玉県比企郡の「袖引小僧」や長崎県壱岐地方の「袖取り様」等が有名だが、こちらは姿を見た人もなく、正体は謎である。

<参考文献>「耳嚢」岩波文庫版       根岸鎮衛 著/長谷川強 校注
      「鳥山石燕 画図百鬼夜行」   高田衛 監修